どこかの世界の、どこかの国の、どこかの森の奥深く。
そこには、とびきり瀟洒な全寮制のパブリックスクールが建っていました。
どんな種族の、どんな出自の、どんな階級のモンスターでも、才能あふれる者であれば受け入れる。
そんな懐の深い学園に、久しぶりの転校生がやってきたようです――

――エティマル学園廊下にて。

ゆなた

「新しい学校生活にわくわく！　いろんな人との出会いにわくわく！　お友だち100人できるかな！　わくわくわく！ ……わく、わく、していたんですけども……はぁ〜あ……」

生徒A

「あ……！」

ゆなた

「あっ！　君、隣のクラスだよねっ、オレっ！　九尾のゆなたって言って！」

生徒A

「しっ、知ってる！　知ってるよ！　あ、俺、友だち待たせてるんだった！　じゃあねっ！」

ゆなた

「う、ぁ……あ〜……」

ゆなた

（うぅ、やっぱりぜーーーーったい避けられてる……！！　いざ授業が始まってからは、ずっとこう……田舎から出てきたし、オレ、マナーとかもよくわかんないし……授業はむずかしいし、むずかしいし、むずかしいし、むずかしいから……むずかしいし）

ゆなた

「でもでもでも、オレだってお友だちいっぱい作って輝かしいスクールオブライフを満喫したい！　一緒にお勉強したり、おやつ食べたりお昼寝したりな、素敵スクールオブライフを！」

――ふらふら。

ゆなた

「ん？　……ふらふら？」

？？？

「あ、う……お、お水……」

ゆなた

「う、うわわわわ！？　とってもきゃわたんしゅてきなお顔……じゃなくって！ ふらふらしてる！　ふらふらしちゃってるー！？ え、お水って言った？　お水……お、お水……！
……い、いでよ水―――――っっっっ！！！！」

――ドバァッ……！！

ゆなた

「うわっ、わ、わわ……！？　あっ、とまんなっ！　わ、わあああ……！？」

？？？

「わぷっ！？」

ゆなた

「うええぇ……！　み、水浸し……また、やっちゃったぁ……。ノーコン魔法のせいで……迷惑かけちゃった……うう、やっぱりこんなんじゃオレ――」

？？？

「ぷはっ！　き、君……すごいね！？」

ゆなた

「しゅびばぜ……ん？　んん？」

？？？

「短い詠唱で、こんなにお水が出せるなんて！　すごいっ！
魔力の量が多いのかなぁ……？　おれ、そんなに魔力量ないから羨ましいな」

ゆなた

「えっ、えっ！？　なんで喜んでらすの……？」

？？？

「え？　だって、すごい、でしょ？　おれ、マーメイドだから、こんなにお水いっぱい出してもらえてうれしかった」

ゆなた

「ほああああああ！！！　その笑顔、プライスレスですううう！！！」

アヤエル

「え？　えっと、ぷらいす、れす？ ふふ、面白いね。……あのね、おれの名前はマーメイドのアヤエル。
君のお名前、教えてほしいな？」

ゆなた

「オレ！　オレの名前はゆなた！　九尾の狐のゆなたでっす！」

アヤエル

「ゆなた君……うん、いい名前だね」

ゆなた

（ほああ、やさしいえがお……も、もしかしたら、この人ならオレと友だちになってくれるのでは……！？）

ゆなた

「あのっあのっ、えっと、えーっと、オレ……！」

アヤエル

「ゆなた君、あの、よかったら……おれと友だちになってくれない？」

ゆなた

「ふあああああ！？　よ、よよよよよ、よ、よろっ、喜んでぇ！？」

アヤエル

「あははっ、声大きいね。ゆなた君って、元気いっぱいなんだ」

ゆなた

「ふあい！　元気だけが取り柄でしゅ……！　んあ、噛んだ。でも、なんで……？」

アヤエル

「ん？　友だちは多いほうがいいって、姉さんが言ってたし……。
ゆなた君、面白い人だなって思って」

ゆなた

「す、素敵なお姉様をお持ちで……。オレ！　オレ、友だちぜんっぜんいなくって！　だからめっちゃ嬉しいです！　ひゃっほー！」

？？？

「おーいっ、アヤエルー！」

アヤエル

「あっ！　こ、ここだよーっ」

ゆなた

「？」

？？？

「こんなところにいたのかよ。……って、なんだこれ！？　廊下が水浸しじゃねえか！」

アヤエル

「こ、これは……えっとね」

ゆなた

「お、オレのせいですぅ……オレがやりました……」

？？？

「ああ？　お前……？　あ！　あれか？
『嵐を呼ぶ……どころか嵐すら無に帰す暗黒の破壊神　九尾のゆなた』！」

ゆなた

「ぴえん、ひどいあだ名」

？？？

「はあ〜……ったく、ここあとで掃除しとけよ？」

ゆなた

「ふぁい」

アヤエル

「まっ、待って、イオリン君！」

イオリン

「ああ？」

アヤエル

「こ、これはね？　おれがまた……」

イオリン

「脱水起こしてたのか！？」

アヤエル

「う、うん……で、でもね、ゆなた君がお水を出してくれたから平気だったんだ……！
だから、おれのせいなんだ。ゆなた君のせいじゃないんだよ」

イオリン

「……そうなのか？」

ゆなた

「う。は、はい、けどけど！　そもそもオレがノーコンなのが悪くてですね！」

アヤエル

「ちがうよ、おれが……」

ゆなた

「いやいやオレが！」

イオリン

「チッ、怒ってねえからそれやめろ。……水、拭き取るのはあとでオレも手伝ってやる」

ゆなた

「え！？」

イオリン

「アヤエルが脱水になんのはいつものことなんだ。時間になっても来ねえから、またどっかで倒れてるかも、とは思ってたが……
見つけるのに時間がかかったオレの責任もあるだろ」

ゆなた

（トゥンク！　なんてやさしい目……！！！！）

アヤエル

「えへへ……いつもごめん、ね？　ありがとう」

イオリン

「それにしても、本当にコントロールできねえんだな。……どうしたらこんな、水浸し……人がすっ転びそうな……ふ、ふふ」

ゆなた

「はえ……？　どしたんすか？」

イオリン

「はっ。いや、なんでもねえ」

アヤエル

「あ、そうだ。ね、ゆなた君、おれと一緒に来ない？」

ゆなた

「え？」

イオリン

「おい、アヤエル……それは」

アヤエル

「お友だち、たくさんできると思うよ？　イオリン君も、ダメ……かな？」

イオリン

「はあぁ〜あ……おい、ゆなた。オレはフェアリーのイオリン・オブライエン。
ついてきても構わないが……あー、そのなんだ、礼儀はわきまえとけよ？ わかったな」

ゆなた

「ひゃい！　イオリン先輩、了解であります！……で〜、どこにオレは連れてかれるんでしょう？」

イオリン

「ああ、それは――」

ゆなた

「せ、生徒会室ぅ〜〜〜〜〜っっ！？！？！？」

イオリン

「うるせえ！」

ゆなた

「あびゃ、びゃびゃびゃ……！　ここが！　あの！　かの有名な！
全生徒のあこがれの！　例の！！！！ ……アヤ君も、イオリン先輩も……ふあ！？　そうか！　そうだ！ そうだったーーーー！？
大天使アヤエルと孤高の貴公子イオリン！！！ このイケフェイスを忘れるなんて一生の不覚ぅうう！！」

アヤエル

「ゆなた君、入らないの……？」

ゆなた

「恐れ多いですが、謹んで入室させていただきます」

――ガチャ。

？？？

「……〜♪」

ゆなた

「！」

？？？

「ん……？」

ゆなた

「ここにも……天使が、おる。天使が」

イオリン

「こいつ泣いてるぞ！？　何したんだ、ミット！」

ミット

「なんにもしてない。見てたでしょ、バカなの？」

ゆなた

「召されちゃうぅ……てえてえ、お声とお顔。まるでひとり聖歌隊」

ミット

「……バカはこいつのほうだった」

イオリン

「というわけで、改めて自己紹介だ。 オレはこの生徒会の副会長をしているイオリン・オブライエン。で、こいつは書記の……」

ミット

「ミット・ガルー」

アヤエル

「ミットさんは、ワーウルフなんだよね」

ミット

「ん」

アヤエル

「おれは庶務のアヤエル、だよ」

ゆなた

「あざっす！　オレは――」

ミット

「知ってる」

ゆなた

「ぎゃん！　いやな予感」

イオリン

「魔力量は多いのにノーコンで」

アヤエル

「げ、元気いっぱいな」

ミット

「味覚音痴の転校生」

ゆなた

「……九尾の狐のゆなたです、ハイ」

ミット

「で？」

ゆなた

「で、とは……」

ミット

「なんでここにいるの」

イオリン

「ああ、ここに来るまで話しを聞いていたんだが、転校してきたばっか……ってわけでももうないが……まあ、ともかく友だちができないんだと」

ゆなた

「ふぁい……お友だちつよつよに募集中です、ミットさんもぜひおともだ――」

ミット

「却下」

ゆなた

「ひん！　でも、クールなお顔もしゅてき」

アヤエル

「あは、は……でも、あの人も転校生に興味があるって言っていたし」

ゆなた

「ふあ……？　あの人？」

イオリン

「ああ、そろそろ来る頃だな」

ゆなた

「？」

ゆなた

（靴音が聞こえる……どんどん近づいてくるその音は軽やかで、まるで春の訪れを告げる風のよう。そして、甘い香りを漂わせた彼はそのドアを開け放って――）

ミクーリ

「やあ、君が転校生君だね――僕は、生徒会長のモモ・ド・ミクーリだよ」

ゆなた

（そう言って不敵に笑った彼に、オレの目は奪われて――）

イオリン

「めちゃくちゃデカくてうるさい心の声が聞こえる気がするんだが」

ミット

「幻聴じゃない？」

ゆなた

「あ、憧れの……み、みみみ、ミクーリしゃん……！ ドアを開ける前に、な、なんでオレがいるって……？」

ミクーリ

「君の気配を読むなんて、朝飯前、だよ☆」

ゆなた

「きゅんっ！！！！」

アヤエル

「えっ、全校生徒の気配……覚えてるの？」

ミクーリ

「もちろん！　僕の学び舎の大事な生徒たちだもん♪」

ゆなた

「あわわわわ、ウィンクで致死量のきゅんが……！」

ミット

「大事な生徒、死にかけてるけど」

ミクーリ

「あはは、君、面白いね？」

ゆなた

「ハイ、オレは面白いです！　ミクーリさんが言うなら、オレは今日から面白い枠として生きていく所存です！　ハイ！」

イオリン

（ヤバいやつ連れてきちまったかも……）

ミクーリ

「それじゃ、次の議題は？」

イオリン

「この間、ミノタウロスたちから上がったんだが、食堂の食事量が……」

ミクーリ

「ああ、その件か……。イオリン、ちょっと予算確認頼める？」

イオリン

「ああ、わかった。……ミット」

ミット

「わかってる。議事録に次までの課題って、入れた」

イオリン

「ん」

ゆなた

「ほえぇあ……しゅごい、こんなふうに生徒会の皆さんはお仕事してるんだぁ」

アヤエル

「す、すごいよね。おれ、ぜんぜんまだ力になれてないから、いつも頑張んなきゃって思うんだ……っ」

ゆなた

（きっとアヤ君はいるだけで癒やしになってる……てえてえ、合掌）

アヤエル

「？」

ゆなた

「にしても本当にすごい。こうやって、オレたち生徒の平穏で安全安心二重丸な暮らしは守られてるんですね！」

イオリン

「まあな。……それも、たまにお前みたいな魔力バカに壊されるわけだが」

ゆなた

「うぎゃ……！　さぁせん、です……ご迷惑をおかけしますぅ」

ミクーリ

「……で、次の議題は――また、なんだ」

イオリン

「ああ、連続フェアリーサークルイタズラ事件、だ」

ゆなた

「ふぇぁり……さ？？？」

アヤエル

「ああ、ゆなた君は遠くの国から来たんだっけ？」

イオリン

「フェアリーサークルってのは、オレたちフェアリー族が踊ったあとに発生するんだが……」

ミクーリ

「その円に入った人をどこか別の場所に飛ばしたりすることができるんだよ」

ゆなた

「え！？　ワープスポットってことですか！？」

アヤエル

「すごいよね。でも、そのフェアリーサークルが最近、変なところにできたりしていて……」

ミット

「下駄箱のフェアリーサークルが屋上に通じてる、寮の入り口のは校舎裏」

イオリン

「トイレの個室で、隣の個室に移動する、なんてのもあったな」

ゆなた

「え、めっちゃ迷惑じゃないですか！　こ、困る……っ！！」

ミクーリ

「そうなんだよねぇ……だから生徒会としてもちょっと対策しなきゃなって」

イオリン

「やっぱ、フェアリー族全員に――」

ゆなた

「……あっ、あのっ」

ミクーリ

「ん？」

ゆなた

（心臓がバクバクする。 でも、今言わなかったら、きっと後悔するから……！）

ゆなた

（だから――）

ゆなた

「オレがこの事件、解決できたら――生徒会に入れてもらえませんか！」

ゆなた

心臓がバクバクする。でも、今言わなかったら、きっと後悔するから……！）

ゆなた

（だから――）

ゆなた

「オレがこの事件、解決できたら――生徒会に入れてもらえませんか！」

ミクーリ

「！」

イオリン

「お前、何言って……」

ミクーリ

「ふふ、いいよ。真実を探しておいで？」

ゆなた

「……ゴクリ」

――放課後、校舎裏にて。

ミット

「で、なんで僕まで巻き込むわけ」

アヤエル

「あは、は」

ゆなた

「ぴえん！　だって、ミットさんが一番こう、犯人探しとかは力になってもらえるかなって思っちゃって！」

ミット

「なにそれ」

ゆなた

「ワーウルフって、人狼ですもんね」

ミット

「うん」

ゆなた

「だったら匂いとか、音とかそういうので……こう、ぐわーって」

アヤエル

「確かに、ミットさんすっごく鼻が利くよね。探しものとか、迷子探しとか、そういうときいつも、すごいなぁって思ってる……尊敬する」

ゆなた

「ほら！　ね！？　ね！」

ミット

「……意味分かんない。というか、そもそもなんで僕が手伝ってあげないといけないの。理由がない」

ゆなた

「うぐっ、そ、それはそう。ミットさんに理由はない。 けど、けどけどぉ、でもぉ！　
……うえええ、説得できるだけの理由がやっぱりなぁいっ！」

ミット

「泣かないでくれる？　鬱陶しい」

アヤエル

「あ、ゆなた君、こ、これっ」

ゆなた

「うぁあ、ハンカチ……あざます。やさしみ」

ミット

「アヤエル君。……そろそろ水飲みに行ったら」

アヤエル

「あ……っ！　う、うん、確かに……っ」

ゆなた

「ふあああ……！　体調管理は大事、それ以上に大事なことはないぃ。 残念だけど、またねぇ……アヤくぅん」

アヤエル

「うん……っ、ごめんね、おれもなんか手がかりがないか調べておくね」

ゆなた

「ありがたやぁ……！！」

ゆなた

「うっ、うっ……ぐすぐすっ、がんばらないとぉ……」

ミット

「…………」

ゆなた

「なんれす？　……ぐすっ、ぐすっ」

ミット

「なんで、入りたいの？　生徒会」

ゆなた

「え？　あ、憧れ……だから？」

ミット

「ふうん……」

ゆなた

「……んー、や……オレ、ずっとずーっと遠くの島国から来たんですよ。
で、しかもその中でも田舎出身で。 狐しかいない村だったんですけど、そこでめっちゃ大事にされてたというか。
ありがたいことに、村のみんな、こんなオレにもすっごい優しくて。……おせっかいな人多かったけど」

ミット

「うん」

ゆなた

「だから、オレ、すごい世間知らずに育っちゃった自覚があって。
事実、この学校に転校して来たら空気読めてないことばっかで、友だちもできないし。
でも、オレ、村のみんなが送り出してくれたからにはいっぱいいっぱい勉強して、いろんな経験とか、そういうの持ち帰んなきゃって思ってて。
で、で、そのためには友だちとか欲しくって。いっぱい欲しくって」

ミット

「……それで、なんで生徒会？」

ゆなた

「憧れの生徒会に入って、憧れの皆さんとお友だちになれたら、それってはぴはぴのはぴだし、すごくない！？　って、思っちゃったんですよねぇ」

ミット

「ふうん」

ゆなた

「ちなみに、ミットさんはどうして生徒会に？」

ミット

「……気づいたら入れられてた」

ゆなた

「へ！？」

ミット

「……別に入りたかったわけじゃない。けど、入学してすぐ……屋根の上で遠吠えしてたら、モモさんに生徒会への招待状もらって」

ゆなた

「おおお！？」

ミット

「で、断った」

ゆなた

「おおお……？」

ミット

「けど、モモさんはしつこい。 ……生徒会を防音にするから好きに遠吠えしていいって言われて、それで」

ゆなた

「ほむほむ……。ミットさんの遠吠えってさっきのお歌です？　あれは素敵だったもんなぁ……確かに招待しちゃうかも……。
イオリン先輩とかアヤ君とかもそういう一芸入試（？）なのかな……」

ミット

「知らない。けど……アヤエル君は気遣いができる子だからって、ある日モモさんが連れてきた」

ゆなた

「ひい！　やっぱり一芸！？　イオリン先輩は……？」

ミット

「あいつは……忘れた……なんだっけ。僕が来る前からいたかも」

ゆなた

「そ、そっかぁ……けど、イオリン先輩なら自薦も他薦もありそうだもんなぁ。しゅん」

ミット

「しゅん……？」

ゆなた

「や、なんか、オレ、なんにもそういう一芸とかないし。
オレなんかじゃ、やっぱり生徒会に入りたいなんて高望みだったかなって。
ミクーリさんを困らせちゃったなら嫌だなって……うう」

ミット

「……別に、困ってないんじゃない」

ゆなた

「え？」

ミット

「だって、わざわざ機会をくれたんでしょ。困ってるなら、きっと無視する」

ゆなた

「いやいや、ミクーリさんに限ってそんな」

ミット

「あの人、怖い人だけど？」

ゆなた

「え」

ミット

「ヴァンパイアって、傲慢で、気高くて、怖い人が多いって言うでしょ」

ゆなた

「むむ……怖いミクーリさん。
気高くて、傲慢で、こわこわの…………さいのこう」

ミット

「意味分かんない」

ゆなた

「あはは。……でも、うん、やっぱり入りたいな。オレ、生徒会に。 ミットさんも優しいし、オレ、好きです。みんなのこと」

ミット

「ん……」

ゆなた

「はっ！　だったらこんなところで喋ってなんかいるなって話ですよね！
ちゃきちゃきなにか証拠が落ちてないか探しに……！」

ミット

「ゆなた君」

ゆなた

「あい？」

ミット

「犯人の目星はもうついてるんだけど」

ゆなた

「え」

ミット

「だから、こんな茶番はもうやめたい」

ゆなた

「うえ、うえええええええ！？　どゆことです！？！？」

ミット

「うるさ……」

ゆなた

「え、でもじゃあ……なんで？？」

ミット

「説明、面倒」

ゆなた

「し、してくださいぃ！　説明、聞きたいですぅ！」

ミット

「すがらないで、邪魔」

ゆなた

「あ、はい」

ミット

「今夜、裏門に来てくれたらわかるから」

ゆなた

「……ごくり」

――真夜中、裏門にて。

ゆなた

（ふあ……ねむい）

ゆなた

（けど、ミットさんに来たらわかるって言われたし……）

ゆなた

「あっ、ミットさー……んんん！？」

ミット

「あ、来た」

ゆなた

「おみみ！　おみっ、おみっ、おみみ、おみ、おみみー！！！！！」

ミット

「うるさ」

ゆなた

「なんで！？　なんでぇ、そんな、もふかわきゃわたんになってるんですかー！？」

ミット

「……ん」

ゆなた

「ほえ？　月？　あ……っ！　満月だから！？」

ミット

「ん。……満月の晩はこうなる。あんたもしっぽ出てるけど」

ゆなた

「はっ、これはその興奮しすぎて……！」

ミット

「……ん」

――むぎゅ。

ゆなた

「え、ちょ？」

ミット

「……んん」

ゆなた

「ぬあああ！？　あぐあぐしてる！？　あぐあぐ！？」

ミット

「割とあんた毛並みいいかも」

ゆなた

「ひょあああ、ここが天国か」

ミット

「うるさい、噛み癖も習性」

ゆなた

「な、なるほど。大変素敵な生態……しゅてきすぎて語彙力死にまくりNightですね」

ミット

「語彙、割とあるけど」

ゆなた

「てえてさを称えるためならば灰色の脳みそ総動員しまっす！
それで、ミットさん、どこへ行くんですか？」

ミット

「ん……こっち」

ゆなた

「あああっ、足速い！　あんよが上手！　置いていかないで〜っ！」

ゆなた

「み、ミットさん、どこ行くんですか？」

ミット

「森の奥」

ゆなた

「それはわかるぅ」

ミット

「寮に抜ける近道、ここ」

ゆなた

「え？　そうなんです？」

ミット

「ん」

ゆなた

「なる、ほど……」

ミット

「…………」

ゆなた

「…………」

ミット

「…………」

ゆなた

「……んんん。ミットさん、しりとりしませんか」

ミット

「嫌」

ゆなた

「ぴえん」

ミット

「！」

ゆなた

「ミットさん……？」

ミット

「黙って」

――カサッ。

ミット

「……！」

ゆなた

「あっ、ミットさん！？　そ、そんな急に走っちゃ……！　うええ、さすがワーウル」

ゆなた

「はあっはあっ、ミットさん！　見つけた！ そんな木の上でなにやって……――え？」

ミット

「ん」

ゆなた

「それ……その、おみあしとお口で捕まえてるのって……」

イオリン

「…………」

ミット

「鱗粉……まずっ」

ゆなた

「ああああ、ペッペッしちゃダメ！　イオリン先輩、落ちちゃうっ！」

イオリン

「ん……」

ゆなた

「せ、セーフ！　抱きとめ成功！ て、ていうかなんでイオリン先輩が……ここに？」

ミット

「……フェアリーでしょ、こいつ」

ゆなた

「えっ」

ミット

「あんたはなんの犯人を探してるの？」

ゆなた

「あ……っ！」

ゆなた

（そ、そんな……まさか！
で、でもっ、イオリン先輩、フェアリーの姿になってるし……あ、てえて。
てえてえな、フェアリー。名実ともにふぇあたん、かわいい……じゃなくって！）

ゆなた

「ってことは、犯人は――」

――バサッ。

ゆなた

「え？」

ミット

「――遅い」

ミクーリ

「やあやあ、今夜はいい夜だね……ミット、ゆなた」

ゆなた

「んぎゃーーーーーーーー！！！！！」

ミット

「うるさい、なにこいつ。ずっとうるさい」

ゆなた

「ゔぁんっぱい、ああああああ……むぐっ！？」

ミクーリ

「ダメだよ、イオは寝てるんだから……静かにしてね？」

ゆなた

「ひょぇあ……ひゃい、静かにしましゅ」

ミクーリ

「ふふ、いい子」

ゆなた

「死」

ミクーリ

「それで、イオは……？　うん、よく寝てるね」

ミット

「ほんと、茶番」

ミクーリ

「そう嫌な顔しないでよ、ミット」

ゆなた

「あの……えっと、イオリン先輩は――」

ミクーリ

「しーっ……彼はなぁんにも知らないんだ」

――後日、生徒会室にて。

ゆなた

（あれから……。
ミクーリさんが言うには、犯人は生徒会の副会長イオリン・オブライエン。
もともとイタズラ好きが性分のフェアリー族なのに、イオリン先輩は根っから真面目でストイックな性格だからイタズラを自分で自分に禁じてるらしく……。
その反動で、夢遊病？　みたいにイタズラをしちゃうんだとか……）

イオリン

「？　なんだよ？」

ゆなた

「な、なんでもないでっす！　はい！」

ゆなた

（そのことを知ってるのはミクーリさんと、寮で同室のミットさんの二人だけ。
アヤ君は毎晩すやすや健やかで寝たら起きないから気づかないんだとか。
……てえてえ。
で、ちょっとイタズラが行き過ぎたときは、ヴァンパイアであるミクーリさんが夜な夜な止めていた、と……ふ、ふふふ……ミクーリさん、夜空が似合うミクーリさん……ん？　あれ、っていうか、じゃあ――）

ゆなた

「えっ、待って……！？
でもじゃあ、オレ、生徒会には入れないってことでは！？」

アヤエル

「ど、どうしたの？　急に」

イオリン

「事件を解決するって啖呵切ってたあの件か？」

ゆなた

「あい、それです……」

ミクーリ

「ふふっ、それはどうかなぁ」

ゆなた

「え？　これは……？」

ミット

「招待状」

ミクーリ

「そう、これは親愛なる君への招待状だよ。
平穏で退屈でつまらない、愛すべき日常を壊す係として――ようこそ生徒会へ」

ゆなた

「う、そ」

ミクーリ

「君さえよければ、歓迎するよ」

ゆなた

「わっ、あ、あああ……っ！」

アヤエル

「よかったね！　ゆなた君！」

イオリン

「ったく……ほんと、ミクーリセンパイは甘いよな」

ミット

「騒がしいのが増えた」

イオリン

「ああ？　なんでオレのこと見てんだよ！」

ミット

「別に」

ゆなた

「オレっ、オレ……うれしいですっ！　でも、けどっ！
オレ、なんにもできることなくって……それにその、事件だって……！
それでもいいんですか？」

――ぐいっ。

ゆなた

「ひぇ……っ！」

ゆなた

（近い。近い近い近いファンサがすごい）

ミクーリ

「君がいてくれたら、イオリンもストレス発散にもなると思ってね。
解決、してくれるんでしょ？　トラブルメーカー君」

ゆなた

「ひょ、ぁ……もちろんで、し……！
あ、あああ、顔、良……あ、ああああああ！　てえてえよおおおおおお！！！」

――ゴオオオッ！

イオリン

「ちょっ、なにやって！？」

ミット

「魔力暴走。……すごい風なんだけど」

ゆなた

「ありがたくその任務、拝命いたしますうううう！！！」

アヤエル

「かっ、風……わっ、あ、ああ……！」

イオリン

「待て、待て待て待て！　アヤエルが乾くだろ！？」

アヤエル

「み、水ぅ……う、ぐぅ……っ」

ゆなた

「ああああああ！？　ごめんね！　アヤくーーーーんっ！」

――ドバァッ……！

ミット

「今度は洪水」

イオリン

「ゆーーーなーーーたーーーっ！！！」

ゆなた

「ひえぇええっ、ごめんなさぁあああああいいっ！」

ミクーリ

「ふふ――これから素敵な毎日になりそうだね♪」

――どこかの世界の、どこかの国の、どこかの森の奥深く。
そこには、とびきり瀟洒な全寮制のパブリックスクールが建っていました。
どんな種族の、どんな出自の、どんな階級のモンスターでも、才能あふれる者であれば受け入れる。
そんな懐の深い学園には、とっても有能で、とびきり破天荒で、みんなの憧れのマトの生徒会があるんだそうです――